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ラストはやっぱり「フロフェッショナルになろう!」通所介護&リハ7・8月号

雑誌、通所介護&リハで連載を一年続けてきました。7・8月号で完結。
やっぱり最後は今まで学んできた解剖学・運動学の知識と技術を使って、利用者さんを気持ちいいお風呂に入れてあげて欲しい!それで、「フロフェッショナルになろう!」と呼びかけて書きました。ちょっと長いのでお時間あるときにどうぞ・・・

介護の集大成  ”フロフェッショナル” になろう!
                         松本健史(松本リハビリ研究所 理学療法士)

とうとう最終回となりました。これまでの知識を、現場の実践にどう役立てるか?入浴を題材に考えてみます。本連載の集大成と思ってお付き合いください。

入浴ケアが広まってはきましたが・・・
多くの介護施設が個別浴槽(以下、個浴)を導入しています。肩までつかる気持ちのいいおフロがはじまり「利用者さんに喜んでもらえた!」「元気になった!」という声を聞く一方、「個浴がうまく使えません」という施設も多いようです。この違いは何でしょうか?
カタチだけ導入しても、ケアはよくなりません。僕は入浴ケアもふだんのケアの積み重ねが明暗を分けていることに気がつきました。この連載で培ってきた運動学・解剖学・生理学の知識を動員すれば、きっとすてきな入浴ケアが実現できます。

生活動作の最難関が入浴です!
お風呂は生活動作の中で一番難しい動作です。なぜなら、車いすで生活している人のほとんどが「床にお尻がつく姿勢」をとることはありません。一日のうちで唯一、浴槽に入っている時のみ、お尻が床につくのです。しかも浴槽は水ですべりやすく、立ち上がりや出入りは、とても難しい動作となります。多くの人はそれに恐怖感を覚えるのです。安心して入ってもらうためには、介助者のサポート力が問われるのです。

入浴介助がへたな職員の特徴
お風呂が生活動作の中で一番難しいということを述べました。だから改修工事などでせっかく個浴を準備しても、結局「自立の人しか浴槽に入れない」という施設も多いようです。うまくいかない施設はなにがいけないのでしょうか?
僕はいくつか理由があると思いました。個浴をカタチだけ導入しても、以下の視点が抜けていると、うまくいかないのです。まさしく本連載で伝えてきたことばかり。そう入浴ケアは介護の集大成といえるのです。

①解剖学を理解した介助
②運動学を理解した介助
③そのひとらしいお風呂づくり(環境設定)

それではひとつひとつみていきましょう。

①解剖学を理解した介助
写真は普段の介助で立ち上がりを支える時の写真です。DSC01696

このときズボンのウェストを持って「ヨイショ」と引っ張り上げるように介助するシーンをよく見かけます。この介助に慣れてしまっていると、入浴中は裸ですから「引っ張るためのズボンがない!」と介助者は困ってしまいます。

困った挙句、ワキを持って引っ張りあげるような介助になってしまうのです(下図)。

スライド121

坐骨結節を支えた立ち上がり介助

スライド107

 

大転子を支えた立ち上がり介助

DSC01467

 

ふだんからできるだけズボンを引っ張るのではなく、おしりの下部あるいは側方を支える介助を心がけるといいでしょう。この介助には解剖学の知識が必要です。おしりの下部には「坐骨結節」、側方には「大転子」という支えやすい部分があります。このポイントを知っていると裸の人でも安定して支えることができるのです。

入浴介助に役立つ解剖学上のポイント 「坐骨結節」「大転子」

大転子を支えた、浴槽での立ち上がり介助

浴槽からの立ち上がり動作はを後方から大転子を支えて介助しているところ。
このように支えやすい解剖学上のポイントを知っておくと安全な介助ができます。

 

運動学を理解した介助
浴槽から立ち上がる動作は本人の姿勢と動作の誘導が大事です。浴槽の床から立ち上がる動作が安定して行えるひとは、実は普段の立ち上がりでも運動学上のポイントを踏まえた立ち上がりができているのです。
図は連載第4回で紹介した立ち上がりの3条件です。

人は立ち上がり動作を行う際、図の3条件が必要です。
立ち上がりの3条件
日総研141108 (2)

①前かがみ
②足を引く
③適したイスの高さ

普段の立ち上がり動作を介助するときに、この3条件を大切にすると見違えるように立てる人がいます。ただ入浴時はお尻が地面についています。これは条件の③「適したイスの高さ」 が奪われてしまった状態です。ですから、この時は残りの2条件をいつも以上に意識して、①前かがみ→しっかり前かがみ、②足を引く→しっかり足を引く、という、すこし大げさなぐらいの姿勢づくりが大切になります。そうするとお湯の中で助けてくれる力が現れます。さてなんでしょう?そう!「浮力」です。浮力を味方にするとお尻が浮いてきて、案外簡単に立ち上がり動作が実現します。

立ち上がり

お風呂の中での浴槽での立ち上がりを横からみた写真

DSC01467
浴槽での立ち上がりの3条件
①しっかり前かがみ
②しっかり足を引く
③浮力
をしっかり利用する。

ポイント
浮力が働きお尻が浮く。後方から支えて臀部を前方に押す(引き上げるように介助しない。腰を痛めます)。

また普段から身体機能の評価ができていると、お風呂の時にどんな介助が必要か、どんな環境設定が必要かなどを考え、安心、安全なお風呂介助ができるでしょう。
入浴の身体機能チェック
①座位保持の能力(体幹の筋力、立ち直り反応の有無)
②上肢・下肢の筋力 (とくに浴槽で身体を支える下肢筋力)
③関節の可動域(とくに股・膝関節)
④疾患の諸注意(左右の麻痺、人工関節の脱臼肢位など)
これらをチェックし、どういった介助法が適切かを考えていきます。

その人らしい入浴を実現する!フロフェッショナルになろう!
「認知症があって入浴を拒否される。入ってもらえない」という相談を受けることがあります。その場合、「どう誘導するか?」だけに知恵を絞るのではなく、本人さんや家族さんのお話などから、本人さんがいままでどんな仕事をして、どんな時間帯に、どんなお風呂に入ってきたか?そんな視点を持つことをおすすめしています。ぜひ、その人らしい、リラックスしたお風呂とは何かを考えてみてください。
お湯の温度、入る時間帯、手順(身体を洗ってから入るのか、先に浴槽につかるのか?風呂上がりのビールは好きか?)
お風呂はとてもデリケートでプライベートな時間のはずです。そういった十人十色のお風呂を考えて用意していくことが、「こんな風呂ならまた入ろう」という気持ちの変化につながっていくものです。(記憶障害があっても、いい気持ちだった、いやな気持ちだった、そんな『快・不快の感触』は残っているもの。僕たちは利用者さんとその感触を積み重ねることができるのです。)

その人らしいお風呂が用意でき、また入りたくなる・・・そんな入浴ケアが出来る人を僕はフロフェッショナルと呼んでいます。ぜひフロフェッショナルを目指してがんばっていきましょう。

<連載6回全タイトル>
「生活リハビリに生かす解剖・生理・運動学の知識」
第一回 「高齢者の転倒」を防ぐ解剖学・運動学の知識
第二回 拘縮の悪化を予防する運動学・解剖学・環境設定
第三回 不穏が落ち着く「排泄最優先の原則」
~メデシン(薬品)よりも「目(メ)手心(デシン)」を!~
第四回 介護がうまくなる運動学
第五回 高齢者の姿勢をよくする解剖学・運動学
第六回 介護の集大成 ”フロフェッショナル”になろう!

参考文献
リーダーのためのケア技術論 関西看護出版 高口光子 (2005)
医療は「生活」に出会えるか 医歯薬出版株式会社 竹内孝仁 (1995)
一人浴改革完全マニュアル  関西看護出版 青山幸広(2006)

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