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雑誌 通所介護&リハ 5・6月号に原稿書きました

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雑誌「通所介護&リハ」5・6月号に原稿書きました。『生活リハビリに活かす 「解剖・生理・運動学」の知識』

 

高齢者の姿勢についてがテーマ。現場で役立つ視点、実施しやすい体操を紹介しました。

連載中。『生活リハビリに活かす 「解剖・生理・運動学」の知識』第5回 高齢者の姿勢不良の予防・改善

今回は高齢者によくみられる姿勢不良について考えてみます。姿勢が崩れてしまうことで、生活が不活発になり、身体機能が低下しているケースが多々あります。もっとも多い姿勢崩れの一つが「円背(猫背)」です。今回はこの「円背」の謎に迫ります。そして運動学・解剖学の知識を駆使して、円背を予防、あるいは改善し、元気な姿勢づくりをする、そんな「生活リハビリ」を紹介します。

 

 

円背(kyphosis)の定義

姿勢異常の一つで、横から見て背骨、特に胸椎の部分の後弯が強くなり、背中が丸くなった状態。閉経後の女性に多く、骨粗鬆症で背骨の前方がつぶれたり、背中の筋力が低下したときなどに見られる。俗に「猫背」とも言われる。

実用介護事典  講談社 2005より

 

 

 

 

円背発生のメカニズム

円背のメカニズムは以下の複数の要素に分類して考えることができます。

 

1.体幹の筋力低下

2.脊椎・椎間板の変性

3.生活習慣

4.不適切な環境設定

以下、説明しますね。

 

 

 

1.体幹の筋力低下

加齢により体幹伸展筋力は大きく減少すると報告されています。そして脊柱の生理的Sカーブが保てなくなり、前屈みのCカーブになり、円背が発生します。

 

 

 

2.脊椎・椎間板の変性

円背のある高齢者の多くは骨粗鬆症を呈しており、椎体・椎間板の実質が脆くなり、前方が潰れ、脊柱が弯曲していくと考えられます。

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 3.生活習慣

農村部の高齢者の過半数に円背を含む姿勢異常が認められたという調査があります。前屈姿勢の生活習慣により、姿勢が変化すると考えられます。車いすに座る高齢者にみられる仙骨座り(すべり座)も円背発生のリスクが高いです。なぜなら仙骨座りは骨盤が後傾し、背もたれで胸・腰椎が立ち上げられ、脊柱が強く押し曲げられている状態だからです。

 

円背を感じてみよう!

 

 

円背は諸悪の根源だ!?

円背を疑似体験してみましょう。

➀~➂の順に姿勢を変化させてみてください

➀背中を丸め、おなかを引っ込めるように強い猫背をつくる

➁肩をすくめ、前に出し、左右の肩甲骨の距離が離れるようにする

➂顎を突き出す(写真)

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写真 円背を疑似体験する

 

 

 

疑似体験するとこんな感想がでます。

・「息苦しい」

・「長時間続けると頭がぼーっとしそうだ」

・「胃が圧迫され食欲が減退しそう」

・「うつむいて視野も狭く、気が滅入りそうだ」

 

 

円背は見えない身体拘束だ!?

次に円背姿勢のまま、両手をバンザイしてみましょう。

(写真)円背は体の動きを制限している

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肩が制限され、わずかしか手が挙がらないことがわかります。

「こんなに手が上がらないとは」と驚くことになるでしょう。

もう身体拘束をするような施設はないですが、もしこの円背姿勢を放っておくのであれば、高齢者は腕を縛られているのと同じと言えます。円背を放置することは「見えない拘束である」という意識を医療や介護のスタッフは持つべきです。

 

これだけある!円背の弊害

これら円背の弊害は以下のようにまとめることができます。

 

1.呼吸器への影響 

2.消化器・循環器への影響

3.運動器への影響

4.精神心理的影響

 

 

以下に説明しますね。 

1.呼吸器への影響 

円背があると横隔膜や肋骨の動きが阻害され、換気能力が低下します。円背姿勢での呼吸は、胸式呼吸が優位になることがわかっています。

2.消化器・循環器機能への影響

内臓への強い圧迫により以下のようなリスクが考えられます。

心臓を圧迫→全身の血液循環低下→脳血流量低下→意識状態の低下

胃の圧迫→消化機能の低下→食欲の減退→低栄養状態

円背があると不活発な生活へと陥りやすいといえるでしょう。

 

3.運動器への影響

 先述したように円背姿勢では肩関節の可動域に強い制限が生じます。これが活動性の低下へとつながっている高齢者も多いのです。

 

4.精神心理的要因

 呼吸器・循環器・消化器さらには運動器と広範囲に影響が及ぶため、姿勢不良は精神機能にまで影響を及ぼすことが指摘されています。うつむいた姿勢で長時間過ごすと、視野も狭まり、周囲への興味関心も薄れてしまうことは容易に想像ができます。

 

円背の「生活リハビリ」

円背は老化現象であり、ある程度避けられない姿勢変化ですが運動療法により、予防・改善ができることもあります。日々の日課に無理なくできる体操や環境設定の方法を紹介します。介護職員が円背発生のメカニズムを理解し、環境設定や生活づくりに取り組めば、大きな効果があると思います。以下、介護現場で取り組みやすいプログラムについて紹介します。

 

1.肩甲骨に着目したリハビリ体操

 両側の肩甲骨が脊柱から離れる変化を防ぐため、肩甲骨を定位置に戻す体操をおこなっていくと効果的です。マシントレーニング「ローイング」の目的は菱形筋という筋肉を賦活化させ、両肩甲骨を脊柱に近づけ、円背姿勢の矯正をする運動です。

 

 

エクササイズの紹介 

(※紹介する体操の回数は10回1セット、一日3セット程度が目安。体力に合わせ加減する)

 

1)マシントレーニング 「ローイング」

ローイング 肩甲骨の内・外転、回旋運動を促すことができる。両肩甲骨を脊柱に引き寄せる菱形筋群を賦活化させ、脊柱の伸展姿勢を誘導することができる。

ローイング 菱形筋群を賦活化し、円背予防のための体操ができる。

 

 

 

2)セラバンド体操

セラバンドを柱にくくりつけ、両端を引っ張る。マシンと同じく肩甲骨を脊柱に引き寄せる菱形筋群の活動を促すことができる。

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3)舟こぎ体操

両腕を前方に伸ばし、ボートをこぐように腕を体に引き付ける体操。肩甲骨の大きな動きと脊柱の伸展した姿勢を引き出すことができる。

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船こぎ体操 肩甲骨が脊柱に近づくように背部から誘導し、本人にもその動きを感じてもらう

 

 

 

2.腹式呼吸の体操

円背で胸部優位の換気様式に変化しており、換気効率が悪いため、これに対する運動療法として横隔膜を下げ、下部肋骨を広げるような呼吸リハビリを開始しましょう。

 

 

 

エクササイズの紹介 

腹部に手を触れて、腹腔の膨らみを感じながら深呼吸を繰り返す体操。深くゆっくりと呼吸することを意識し、とくに呼気を強く深く行うことで腹式呼吸のコツがつかみやすくなります。呼気で全部吐ききることを意識して行ってもらいましょう。

 

 

3.体幹筋力の強化 座位にて体幹を大きく動かすエクササイズも有効です。以下の方法がおすすめです。

エクササイズの紹介

座位での体幹の屈曲・伸展運動(百人一首のポーズ)

手をテーブル前方に限界まで伸ばし、そのあとゆっくりと定位置に戻ります。手を伸ばす先に目標を置き、「百人一首で遠くの札に手を伸ばすように」と声を掛けるとわかりやすいです。

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写真 百人一首体操

 

 

 

 

4.シーティング

老人ホームで使用している車椅子の大きさが使用者に合っておらず、それが仙骨座りなどの姿勢不良を助長しているという研究があります。

 

ぜひサイズの合った車椅子を用意してください。また「シーティング」といって車いすや椅子を調整し、姿勢を整える技術もあります。

サイズの合わない車椅子を使用しているひとはいませんか?今一度見直しを行ってください。クッションなどで隙間を埋めるたり、仙骨座りにならないように、坐骨結節部分を少し落とし込んだシートを作成するなどの調整方法もあります。わかりやすい専門書が出ていますので興味のある方はぜひ勉強してみてください

 

参考文献

 

(1)大田仁史ほか 実用介護事典  講談社 2005

(2)髙井逸史ほか 加齢による姿勢変化と姿勢制御 日本生理人類学会誌

(3)勝田治己ほか 老人の姿勢と体幹機能

(4) 竹光義昭 新整形外科上巻(岩原寅猪、他監)446-464 医学書院1979

(5)安藤正明 農村部における高齢者の腰痛と姿勢 別冊整形外科 12 14-17、1987

(6)伊藤弥生ほか 円背姿勢高齢者の呼吸機能及び呼吸パターンの検討 理学療法科学 22 2007

(7)日本リハビリテーション工学協会 SIG姿勢保持:小児から高齢者までの姿勢保持 工学的視点を臨床に活

かす  医学書院 2007

(8)中川朋美ほか  円背を呈する高齢者に対する運動療法の提案 理学療法学 33 p176 2006

(9)木之瀬隆ほか 座位姿勢からみた高齢障害女性の車いす適合範囲の検討 東京保健科学学会誌 2(3) 1999

(10)松本健史 生活リハビリ術 ~介護現場の理学療法士が提案する21の方法~ ブリコラージュ 2010

 

 

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