ロボットにはできない介護とは?

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介護雑誌ブリコラージュの連載第19回。
ロボットと人間のケアの境界線を引いてみました。
ぜひ読んで見てください。

 

 

 

 

 

 

Mission19 ロボットニハデキナイ介護トハ?   

無意識に権力者になってないか?
今日はケース会議の日。ある看護師が興奮しながら話しています。
「山田さん、最近体重が増えてきてるの。あんまり太りすぎないように、ご飯は制限するべきね!」最近太ってきたお年寄りをすごく心配している様子。その看護師もでっぷり太っているんですが・・・。

僕は家に帰って、メデシン仙人に今日の会議の出来事を話しました。仙人はウンウンとうなずき、こう答えました。
「フムフム、介護現場では、あいかわらず、管理・禁止が横行しておるの~。その看護師、シロートでも言えることをシロートよりも偉そうに言ってるだけじゃ!」
「そうなんです。看護師だけじゃなく、介護職もそうなんです。太ってきたからご飯は減量!血糖が高いからおやつはなし! 血圧が高いからお出かけはなし!こんなふうになんでも禁止しちゃう人がいて、本当にそれでいいのかなって思うんですよね」
仙人は、わがもの顔で冷蔵庫から僕のビールを取り出し、うまそうに飲みながら言いました。
「健康と生命を守るためという形で、人を管理・支配することも実は権力なんじゃ。とても見えにくい権力じゃが、三好春樹はこれを哲学者フーコーの言った羊飼いの権力(=牧人権力)と言っておる。羊飼いが羊の群れの安全を守るために献身的に働くことになぞらえてな。介護職は高齢者、障害者にとって権力者になりやすい、ということを指摘しておる」
「はぁ~なるほど。たしかに注意しないとそうなるかも」
「そう言う奴は『アナタのことを思っています。心配だから、これを禁止します』とすぐにいうが、じつは無意識に権力者になりたがってるのじゃ」
「ホントにその人のこと思ってたらまだしも、自分の仕事が増えるから禁止してるだけの人もいるんですよ」

「そんな場面に出くわしたら、できるだけ管理・禁止しない方法を模索するのじゃ。お出かけの前に血圧が高かったら、ひょっとしてお出かけを楽しみにしすぎて、高くなってるのかもしれん。いろんな工夫をして、落ち着いてもらって、もう一度計測してみるとかの~」

介護現場の悪い癖「衣食足りて、楽しみはなし・・・」
仙人はもう一本、グビッとビールを飲み干して、又話し始めました。
「介護現場でもうひとつ気になることがあるんじゃ」
「なんですか?」
「たとえば『オレより介助がうまい奴はいない!お風呂の介助はオレにまかせとけ』
と自慢げにしてる奴!あれはいただけんの~」
「なんでですか?うまく介助できる人のこと、僕、尊敬しちゃうけどな・・・」
「もちろん風呂に気持ちよく入れてあげることができるってことは素晴らしい!今までも、さんざんお前にその奥義『目(メ)・手(デ)・心(シン)』を伝授してきたじゃろう!しかし、介助のうまいやつは、往々にしてそこで終わっておるのじゃ。本人さんの日常生活動作を確立するのは、そもそも、なんの目的でやってるのか?ということを考えてみてほしい。日常の動作を支えることは、本人さんにその人らしい生活、楽しみのある生活を送ってもらうための土台づくりのはずじゃ」
「えっ、お風呂やトイレをしてもらうことが介護の目的じゃないんですか?」
「チッチッチ。オマエちょっと自己紹介してみろ!」
「えっ、僕ですか?なんか恥ずかしいな。えーっと、タコ焼きとうどんが大好物で、趣味はお笑い番組をみること、好きな女性のタイプは美人というよりかわいい人がいいかな~」
「・・・しょうもない自己紹介じゃの、ま、よい。とにかく、自己紹介するときに、一日のトイレ回数が何回とかいう奴はおらんじゃろ。そういう日常の生活動作の上に、その人らしさが花を開くのじゃ!」
「なるほど。食事・入浴・排泄は大切だけど、それをベースにして、その人らしさをひきだせるような介護をすべきなんですね」
「そうじゃ!これからロボットが介護する時代が来るといわれるが、しょせんロボットができるのは、入浴・排泄など生理的項目を満たす介護どまりじゃ。ワシらがすべきは、その人が人生で大切にしてきたものを、もう一度見つめなおす介護ではないかの~」

絵をみて何を感じるか?
「よし練習問題じゃ!もしお年寄りがこんな絵を書いたらどう思う?」
そう言って仙人は一枚の絵を僕に見せました。

 

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仙人が見せた絵  花びらが半分しかない。
脳血管障害でみられる半側空間無視の検査用紙

 

 

 

 

 

 

「わっ・・・右にしか花びらがない・・・たしか学校で習ったぞ!そう半側空間無視といって、脳血管障害の後遺症で空間の半分が認識できない状態ですね」
「ご名答!では注意点は?」
「左の半分が見えないんだから、車椅子で進んでる時に壁に追突しないように、とか食事で左のおかずが残らないように声掛けすること」
「それだけか?」
「えっ、なんですか?その不満げな感じ」
「たしかにオマエの言ってることは間違ってはおらん。しかし、そこで終わってしまっとることが多いと言っておるのじゃ」
「じゃ、どうすればいいんですか?」
「こんな絵を描いてもらえたら、ワシならこうするの~」
仙人はその絵に大きな白い布をかけて、叫びました。
「メデシ~ン、フラッシュ!」
するとその絵が額に入れられ、キレイに色づけされていました。
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額縁に入れられ、アートになった検査用紙

 

 

 

 

 

 

「この絵は、その人しか描けない世界で一枚だけの貴重な絵じゃ!タイトルは『マイ・ハーフワールド(私の半分の世界)』とつけてみたぞ!」
さっきまで味気のなかった検査用紙の絵が、個性的で感動を呼ぶようなアートに変わっていました。思わず僕は言いました。「う、美しい」

「そうじゃろ!ただの評価の紙切れにするのか、アートにするのか、関わる人の感性一つでかくも大きく変わるのじゃ!こんなふうに額縁に入れたら、展覧会にも出展できるぞ!そしてその展覧会にお年寄りと一緒に出かけるのじゃ!ロボットにこんな介護ができるか?」
「ロボットには絶対できないですね~」
仙人は額縁を壁に掛け、絵を満足そうに眺めながら、またビールを冷蔵庫から取り出しました。
僕は我慢できず、缶をひったくりました。「体に悪いです。ビール、そのへんでおしまいにしてください!」
「えっ!」仙人は青ざめて叫びました。「メ~!メ~!メ~!」
「なんですか?そのへんな鳴き声?」
「オマエ、ワシの為を思ってビールを取り上げたじゃろ!それが羊飼いの権力なのじゃ!かよわき子羊のワシはメェメェと泣いておるのじゃ。ビール、とっちゃダメヨダメダメェ~!」
せっかくのいい話が台無しです・・・。

※空間無視の話は筆者の師匠である野尻晋一先生(理学療法士で三好春樹と同窓生)の講話から引用させていただきました。

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