昨年の12月19日(土)林野会館にて「希望としての介護フェスタ」に出演しました。
対談「これからの生活リハビリ」
稲川利光(リハビリテーション医)& 松本健史(理学療法士)
生活と医療の関わりについて話しているうちに、ロックスターの秘話まで飛び出す楽しい内容でした。
松本 僕と稲川先生との出会いは、12年前にさかのぼります。九州リハ大という学校の先生は大先輩です。先生は14期生、僕は32期生になります。
理学療法士、野尻晋一という僕の師匠が14期生の講演会に出演するので、熊本から博多まで出かけて、話を聞きにいったんですね。
そしたらすごい集まりで、印象的な人がたくさん。稲川先生と三好春樹さんもいて・・・。
もちろん最初は三好さんのことも、知らなかったんです。
『なんだ?あの、おもしろいオジさんは?』っていう感じです。会場の爆笑をとってました。
「介護現場から、医者に言いたい事は一つだけ、読める字を書いてくれ!」(笑)
おもしろおかしく語りながら、介護の深い部分まで連れて行ってくれる、三好春樹の講演を聞いて、介護現場で働くことに僕は魅力を感じたんです。
関西に戻り、NPO法人に入って、生活期のリハビリにどっぷりと浸かっていくことになります。あーでもない、こーでもないと悩んで、はや12年、今に至ります。三好春樹にそそのかされて運命を変えられてしまいました!(笑)
稲川先生の印象は、『おお!先輩にこんな人がいるんだ!すごいな~』と思ったのを覚えています。さっき鳥海房枝さんとの対談でもお話されてましたが、稲川先生は最初、銀行に就職が決まりかけてたんですね?スカートの短い女性の多い銀行の誘惑に惑いながら(笑)、医療の道に進まれて、理学療法士として働き、ついには医大に合格された。理学療法士の先輩であり、今は医師として活躍されている先生に、今日は聞きたいことがたくさんあるので、よろしくおねがいします。
リハビリテーションは介護の悩みに答えられるか??
松本 よく介護現場で聞かれるんです。『この人の関節伸ばしてあげたほうがいいんですか?』って。脳梗塞片マヒのあと、もう10年以上もたってる人のマヒは、硬くなってきます。この人の腕、伸ばした方が良いのですか?と聞かれたら、先生はどのように答えるでしょうか?
稲川 脳梗塞の後遺症があって10年もたつとプラトーといって、機能回復は難しい状態になります。「良くなりますよ、リハビリしましょう」とも言えないし。
「これ以上良くなりませんよ」とも軽々しくは言えない。だから、生活に寄り添いながら、痛みをとったり、固くならないようなストレッチを現場でしていくのがいいと思います。
松本 先生の今言われた、「生活に寄り添う視点」が介護現場ではとても大切だと思ってます。介護職さんのなにげない言葉に教えられることがあります。介護職さんが『この人の手が臭くなってきている、清潔なのかな?』と言うんです。こういう何気ない一言に教えられるんですね。治すため、機能回復のためだけじゃなく、清潔を保つためにも、手指のストレッチが必要なんだと。
稲川 拘縮は動かさないと進行するので、改善が難しい場合でも、それ以上固くならないようにして、まず清潔であることは大前提ですよね。
松本 そうなんです、関節拘縮した掌は、夏なんかすごい臭いがするんです。ケアプランに「人と交流する」とか書いてあっても、その前に「体を清潔にする」が必要だなと。優先すべきことは何か?「生活に寄り添う視点」をもつと気づくことができるんですね。
ロックスターの担当医
松本 先生、忌野清志郎さんを担当されていたことを聞きました。僕、大ファンだった
ので、闘病中の秘話が聞きたいんですが・・・。
稲川 うーん・・・それが、担当した患者さんの話をするのは、難しいんですよ。
松本 いいじゃないですか ここだけの話(笑)
大ファンだったんです。学校休んで発売日にCD買ったことあるんです!みなさんはキヨシロー知ってますか?僕歌いますね(デイドリームビリーバーを松本が熱唱)
♪ずっと夢を見て~ 今も見てる~ 僕は~デイドリームビリーバー そんで~彼女はクイーン~
稲川 歌を聴くと、『あ~あのCMソングの』とわかってもらえるね。あれだけのスターでも、世代によってホントに知らない。担当の若いセラピストは知らなかったから、臆せずにリハビリしてましたよ。そして清志郎さんから「名人」と呼ばれて喜んでた。清志郎さん、僕のことは「親方」って呼んでくれてた。で、ある日、僕が関節を動かして訓練をしていると、清志郎さんから「名人はマッサージがうまいけど、親方は下手だな~」って言
われちゃって(笑)。
親しくなったときに病室で言いました。「僕はあなたの歌で元気づけられた」って。そしたら清志郎さんが「僕のどの歌で親方は元気になったの?なんて曲だった?」って聞くんです。咄嗟に聞かれると答えに詰まってしまって、「えーとえーと、泉谷しげるでいうと『春夏秋冬』のような歌です」とわけのわからない答えをしてしまったんです(笑)あー僕も、今の松本さんみたいに本人の前で、歌ったらよかったな~。
認知症は病気ですか?
松本 先生に伺いたいことがまだあります。認知症サポーターになったら、啓蒙活動で、「認知症は病気です」というところから説明をしなきゃいけないらしいんです。僕はなんか抵抗を感じます。そりゃ「この人は病気だな」とうなずける人もいるにはいるんですが、全部が全部「病気です」ってわけでもないな、と思ってます。これはどのように考えたらいいんでしょうか?
稲川 そうだね。「病気です」という説明をしたほうがいいケースとそうでないケースがあると思います。あきらかに生活状況や入院など周りの環境変化が認知症を招いているといえることもあるんでね。
松本 そうなんです。僕の中で「コンロ取り上げ事件」と言ってるケースがあるんですが、
料理をしているおばあさんが、火の始末が危なくなってきたので、家族がおばあさんの部屋からコンロを取り上げちゃった。「もう料理はしなくてもいいのよ」と言われて、食事を運んでもらう生活に変わった。そしたらとたんにぼけちゃいました。
環境が人をボケにする、生きがいを失った人が弱ってしまう、そんなかわいそうなケースが多々あります。
『看護は手当て 介護は手添え』
稲川 やはり、それまでの生活を取り上げない工夫をしないといけないね。
生活リハビリでは、そういった当たり前の生活を大切にする視点と技術が必要だと思います。
料理もそうだけど、食べることは生命を維持するための根本だからすごく大切にしなきゃいけない。僕の著書にも書いたんですが、噛むことが、生きる力を引き出すきっかけにもなるように思います。
看護は手当て ・ 介護は手添え
稲川 少し助けてあげれば、自分で食べれる人なら、どんな介助がいいか?
このマイクをスプーンとして、松本さん食べるところをやってみて。
(松本 食べる動作をする)
この時、食べる手をつかんじゃう人がいますけど、つかむんじゃなくて、下から添えるんですね。足りない力をサポートする。これが大事なんです。だから私は『看護は手当て 介護は手添え』と言ってます。
仕事場の人間関係もリハビリするミーティング方法
松本 今現場は忙しくて、とくに介護現場は職員が疲れてるのかな?元気がないな
んて話があります。希望としての介護フェスタですので、どうすれば元気がでるか?先生
の職場ではなにか工夫をしておられますか?
稲川 僕のところは第一水曜日の朝に元気がでるミーティングをしてます。ほら職員同士で仕事で嬉しかったこと、なんてあまり照れ臭くて、話さなくなっちゃうじゃない
ですか?それをできるだけ話すようにしてるんです。
「あの人が笑った、こんな元気になって、こんなことまでできるようになったよ!」と
か、「家族があなたのこと褒めてたよ、ありがとうって言ってたよ!」なんて話です。
気恥ずかしいし、忙しい業務の中で、多くの職場では、これがあんまりできてないと思うんですよ。照れくささを乗り越えて、お互いを褒め合うミーティングをもっとするべきです!そうすれば、自分のしている仕事の意味がみえてくる。「もっとこうすればいいかも」なんてアイデアがでてくる。仲間があっての仕事だということをお互いに理解して、尊重しあえるんじゃないでしょうか?
松本 なるほど。気恥ずかしくて、たしかに言えないことがありますね。先生の手法は『職場の人間関係までリハビリしてしまう』すごい!話を聞いて、これからの生活リハビリは多職種で連携し、お互いに尊重し、小さな達成を喜んで、分かち合う、そんな仕事になっていくといいなと思いました。僕もこれから、そんな職場づくり・地域づくりをしていきたいと思います。今日はありがとうございました。