【リハビリ医師に聞く:機能訓練ってどうやるの?】 12月15日東京で希望としての介護セミナー があり、登壇してきました。 リハビリ医師の稲川利光×松本健史で 対談をさせていただきました。 タイトルは「機能訓練の向かう先」 稲川先生は理学療法士から医師になった方で、 理学療法士としては同じ学校の大先輩なんです。
理学療法士の経験もある医師ですから 貴重な視点の持ち主だと思います。 稲川先生と対話するうちに、 機能訓練をする我々は地域との窓口の役割 があるなぁと感じました。 ちょっと記憶を頼りに再現してみます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 希望としての介護セミナーファイナル 2018年12月15日 稲川利光 × 松本健史 対談 「機能訓練の向かう先」 ■地域リハビリで大事な「きょういく」と「きょうよう」 松本:地域リハビリが重要視されている昨今ですが、 先生が勤務されているリハビリテーション病院の課題について教えてください。 稲川:回復期病棟では住宅訪問をして、 退院後の生活を視野に入れて機能訓練をするんだけど、 退院してからのフォローがなかなかできてないんだよね。 フォローができていないから、病院では元気になったようでも、 在宅に帰って生活が広がらなくて、元気を失う、そんなケースもよくあります。
松本:リハビリをがんばってたのに退院後は寝たきりに近い生活の方、多いです。 回復期病棟でリハビリをして運動機能を高めても、 家に帰ったらそれを発揮する意欲が湧かない。 「どこかに行きたい」「もう一度役割を持つ」そんな気持ちを引き出す 機能訓練をしていくのは地域リハビリに携わる職員の専門性と いえるんじゃないでしょうか?
稲川:そうだね。いろんな関わりを通して生活を広げる。 結果として心身の機能が保たれる、 それが維持期のケアに携わる人たちの専門性といえると思います。 松本:三好春樹さんは「維持期」を「生活期」と呼ぼうといってますね。 「生活期」は暮らしの中で「その人らしさ」や「元々持っていた関係」 を取り戻していく時期です。介護施設にくる利用者さんに病院の回復期 でおこなわれているような訓練とは違うアプローチになるはずなんですね。 でも訓練室のリハビリがまた繰り返されていませんか? と言いたくなるような場面をよくみかけます。
稲川:生活期のリハビリテーションの有名なキーワードは 「きょういくときょうよう」ですね。 きょういくは「今日行くところがある」できょうようは「今日用がある」です。 今日行くところがない人、今日用がない人は生活は広がらない。 それを広げてあげるべきで、それもないのに、 平行棒歩行はないだろうと思います。 平行棒の先になにがあるかを共有することが大事だと思います。
松本:今日いくところ、今日用がある、本当にそうですね! デイサービスで機能訓練加算をとるには3か月ごとの居宅訪問をすることに なっていますが、その訪問で「きょういくときょうよう」 について把握したいですね。まず訪問したらどんな趣味があるのか、 家に作品が飾ってないかなど見てほしい。 あと家の中での動作。どんなトイレにいってるのか、お風呂はどんな浴槽で どんな動作で入っているのか?これを知った職員がデイサービスで 介助もおこない機能訓練もする。 これがうまく機能すれば、相当効果的なんですけどね。
稲川:そうだね。そんな職員がいれば生活がぐっと広がるだろうね。
■死活問題!高齢者の運転はどうする?? 松本:話は変わりますが、「高齢者の運転」が現在のニッポンの社会問題です。 これから高齢者に関わる人たちは否が応でもこの問題に直面します。 先生は高齢者の運転についてどのようにお考えですか?
稲川:確かに運転に向けてリハビリをおこなうケースは増えてるね。 運転シミュレーターを売りにしてる病院もあります。 でもあれは、病気のない人でもぶつかるほど難しい。 画面が動くだけで加速度とか感じないもんね。 僕もシミュレーターで事故りました(笑)。 患者さんが再び運転するなら教習所と連携をとって、 社会復帰していくという取り組みが大事ですね。 でも半側空間無視など高次脳機能障害があったら、 やはりその人は運転の許可は出せませんね。無理しないほうがいい。
松本:「運転をする」という目的に固執するんじゃなく 「運転ができたらどこに行きたいですか?」 と聞いてみるというのがおすすめです。 そうすれば「孫の家まで行きたい」とか新たな希望を聞けることもあります。 「じゃあ孫さんの家に向かうバスに乗れるように練習しましょうよ!」 と新たな課題がみえてくる。 「運転」を読み替えることも必要だと思うんです。 稲川:そうだね読み替えは大事ですね。我々の腕が問われるところでもある。
■「機能訓練の向かう先」は実は・・・地域づくりだ! 稲川:近所で車の運転が危なくなったお年寄りがいて、 家族に伝えたことがありました。 「おじいさん運転が危なくなってますよ」って。 そしたら娘さんがびっくりして運転をあきらめさせたんだけど、 うちの家内が胸を痛めてね。 「私が伝えたばっかりに運転ができなくなったんだ」と。 だから行き先が一緒だったら、乗せてあげたりしてね。 松本:すごい菩薩のような奥さん(笑)。 稲川:そんな再々はできないんだけど。 近所の高齢者の方とはおかずのやりとりをしたりもしてますよ。 そうやって喜んでもらって、ありがとねと言ってくれて、 それが我々夫婦の居場所でもあるんですよ。 町内会の集まりとか防災訓練とかって大事なんだよね。 都会では、もう「地域がない」っていうところもあって、 そういうところはとても心配だね。
松本:この対談のタイトル「機能訓練の向かう先」が 見えてきた気がします。 我々は機能訓練という看板は掲げているものの、 地域の高齢者のニーズを把握する窓口であるべきなんですよね。 もちろん身体機能を高めることで解決できる問題もあるけど、 むしろそれは少数派だといえます。 地域の人が運転できない高齢者に配慮するように、 機能訓練だけでは難しい部分はフォーマル・インフォーマルのサービスにつなげ 互助や共助の輪で乗り切る。 地域と高齢者をつなぐ大事な窓口。 それが機能訓練の向かう先なんじゃないでしょうか? 稲川:そうだね。これからは機能訓練をする人が 「地域づくり」という大きな視野をもたないといけないだろうね。
いかがでしたか?とても良い話がきけたなと僕は思います。 このあと会場から質問も3つほどあり、 先生と私で考えながらお答えさせていただきました。 そこでも先生は、難しいケースほど、ふだんからの関係づくりを強調されました。 稲川先生、そしてご参加のみなさんありがとうございました。
対談「機能訓練の向かう先」のまとめ ①地域リハビリの「きょういくときょうよう」は 今日行くところがある、今日用がある ②利用者さんの目標は、読み替えてみることも大切 ③機能訓練の向かう先は地域づくりだ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ぜひお近くの際はご参加ください。お待ちしております! ご参加希望の方は、主催者にお申込みください。
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